〜   シャーロッテ&アキ 前編   〜



シャーロッテは悩んでいた。

薄暮の山の稜線に西日も溶け出した夕刻。
店仕舞いの片づけをしていたシャーロッテの武器屋に一人の男が訪れた。
男は、辺りを憚る様に懐から二つの品物を取り出し、買い取ってくれるよう取引を持ち掛けて来た。
訊けば、かつては今は無き議会騎士団直轄のARM研究施設の研究技師であったという。
手持ちの品は、混乱の際ようやく持ち出した試作品の一つであるらしい。
とにかく路銀に困っているので、幾らでもいいから処分したい、との申し出だった。
隅から隅まで胡散臭い話だった。
実際、品物の機能については説明を渋り、詳述を避ける。
普通の商人なら警戒し、そのまま男を追い出すところだった。
だがシャーロッテは未知の兵器たるARMに並々ならぬ関心を持つ、フロンティア精神旺盛な武器屋だった。
不審に思いつつも、幾ばくかの対価を支払って男から品物を買い取った。
男はひったくる様に代金を掴み取ると、黄昏の夕闇に走り去っていった。
シャーロッテは怪訝に思いながらも、その興味はすぐに目の前の品物に振り向けられたのだった。

「む〜・・・」
見れば見るほど、男の置いていった「それ」は得体が知れない。
店のカウンターに並べ、シャーロッテは幾度目かの溜め息を吐いた。

その一つは、毒々しいピンク色の液体で満たされた小壜。

留め金で厳重に封がしてあったが、手近な工具で取り敢えず外してある。
だがどのような薬品か知れないので、蓋を開けることはためらわれた。
そしてもう一つ、楕円の金属製(らしい)の物体。
手触りはひんやりしており、レモンほどの大きさで、中央に継ぎ目がある。

こちらはますます理解不能だった。
恐らくこちらがARMなのだろうが、起動方法も解らない。
シンプルな外装には、スイッチやグリップのような類いも見当たらなかった。
「う〜ん・・・」
これまで接したことの無い未知のテクノロジーに、シャーロッテは驚嘆と困惑の嘆息を漏らすばかりだ。
だが、いつまでも眺めてばかりもいられない。
後学のため、研究のためにもなんとしてもこれらのパーツの機能、成分を解析する必要がある。
シャーロッテは腰を上げると、本格的な調査を実行すべく、店の奥へと向かった。
バックヤードから専用の検査機材、試薬、文献を持ってくるためだった。
その手間はいささか億劫ではあったが、シャーロッテは研究プランを考えながら、店の奥へと入っていった。





程なくして、店の戸口から一人の少女が姿を見せる。
「あの・・・、こんばんは」
いつもこの店の傍らで遊んでいるアキだった。
日が暮れると、シャーロッテの店を訪れ、飲み物をご馳走になって他愛も無い会話を楽しむのがアキの日課だった。
今日は少し遅くなったようだ。
外はすっかり日が落ち、村の家々には明かりが灯り始めている。
アキは店の中を見渡すが、シャーロッテの姿は無い。
時折、シャーロッテは店の雑務に追われて忙しそうにしていることがある。
今日も多分そのためだろう、と待つことにしたアキは、カウンターにある小瓶に気が付いた。
「?」
鮮やかなピンク色の液体を湛えた小瓶。
忙しいシャーロッテが、アキの来訪に備えて用意してくれた飲み物かもしれない。
そう思ったアキは、何気なくその小壜を手にしていた。

シャーロッテは店に戻ることにした。
考えてみれば、重い機材を持ち出してくるよりもあのパーツをラボに持っていったほうが早い、と思い至ったからだ。
そんなことにも気付かないとは、余程ARMの研究に思いを馳せていたらしい。
内心苦笑しながら、店に戻ってみると・・・。
今まさに、アキが例の薬壜を開けているところだった。
パーツのことで頭が一杯だったシャーロッテは、日常のアキの訪問を完全に失念していたのだ。

「アキちゃん、だめッ!!」
先程のように、封が施されている状態だったらアキには到底蓋を外すことは出来なかったろう。
だが今の小壜は、少女の力でも易々と蓋を開くことが出来た。
シャーロッテの静止は一瞬間に合わず、小壜はアキの手によって開封されてしまった。
・・・きゅぽん・・・
微かな軽い音を立て、蓋がずれ、薬品が空気に触れる。
その瞬間、ピンクの液体は驚異的なスピードで気化し、店内に充満した。

「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
不意の出来事に、シャーロッテとアキはその気体を胸いっぱいに吸い込んでしまう。
それは甘く、何ともいえない芳香を放つ洗脳ガスだった。
ガスの中で呼吸する二人の表情に、次第に変化が現れる。
瞳はとろんと潤み、融ける様に理性の光が失われていく。
そしてその身体は火照りだし、下腹部が切なく疼き始めたのだった。

「・・・あ・・・」
「は・・・ぁ・・・」
二人は、うっとりとした表情で目の前の少女を見つめる。
洗脳ガスには、媚薬効果のほか惚れ薬としての効果もあった。
それは当然、異性に対しての効果として設定されているものだった。
だが、性的な意識に乏しい二人にとっては、親しい同性でも愛する対象として認識されたようだった。
夢見るような目つきで相手の全身を舐めるように眺める少女達。
愛らしい顔、華奢な身体、その全てが愛しく、魅力的なものに見える。
こんな愛しい存在が身近にいたとは、二人とも信じられない想いだった。
それは結局薬物効果の感情だったが、二人にはそれを自覚する術も無い。
どちらからともなくふらふらと歩み寄ると、むしゃぶりつく様にお互いの唇を重ねた。
双方にとってファーストキスとなる接吻は、甘く淑やかなものとはならなかった。
くちゅ、ぴちゅっ、むちゅぅ、にゅぐ・・・っ
「ん・・・っく、あむ、はむぅ、んちゅ・・・」
「はぷ、ぅう、・・・んにゅ、ちゅ・・・っ」
淡いピンクに色づいた唇を捏ね回す様に絡ませる。
舌を相手の口腔に捻じ込み、溢れる唾液を啜り込む。
そしてそれをくちゅくちゅと味わいながら、こくこくと飲み干していく。
二人にとって愛を表す行為は「キス」しか知識に無かった。
そのため、口吻の交わりは異様なまでに淫靡に、濃密になっていく。
あどけない少女には不似合いなほど入念なディープキス。
相手に惚れ、欲情した二人にとっては、相手の唾液さえ甘美な蜜に感じられているのだった。
むちゅぅ、ちゅぴ、ぷちょっ、きゅぷ・・・
「んはぁ、はぁ、あぁっ、んぁ、あ、アキぃ・・・」

「はぁ、あんっ、はっ、し、シャーロッテしゃぁん・・・」
欲情の昂ぶりを抑えきれないまま、二人は無我夢中で相手の唇を貪る。
口元から際限無く溢れ出す唾液は、今や首筋を垂れ落ち、胸元まで濡らすほどになっていた。
そしていつしか二人は抱き合うように互いの身体に腕を回し、脚を絡める。
そして拙いながらも、優しく探るように相手の身体を愛撫していく。
それは知識からではなく、本能がさせた行為だった。
ペッティングに移行した二人の交わりは、一層熱を帯び、淫靡さを増していく。
漏れ出す吐息は熱く蕩け、喘ぎ声は次第に少女らしからぬ艶っぽさを帯びてきた。
そして火照る身体を持て余した二人は、どちらからとも無く服を脱ぎ捨てる。
生まれたままの姿になった少女達は、縺れるように折り重なり、抱き合って床に倒れこんだのだった。

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